今日は夢を見ていると思った。
レモがボクに逢う気分じゃなかったのかな。
それともボクがレモに逢う気分じゃなかったのかな。
どちらにせよ、これは夢だ。
昔の夢。
違うな、正確には昔の夢の夢。
だって小さい頃のボクとレモがいる。
『どうしたの、克也』
レモ小さいなあ。でもってボクはもっと小さい。
『これ、キョウちゃんから貰ったの』
キョウちゃん?
誰だっけ……あ、そういえば昔近所にキョウちゃん…今日子ちゃんって娘がいたんだ。
そっか、夾子の名前もきっとそこから来ているんだろうな。
おかしいな、小さい頃の記憶って言われなきゃ全然思い出さないんだから。
それでボクは、何も貰ったんだっけ?
『ビー玉?』
『ビー玉?』
『きれいなガラスの玉のことだよ、克也』
ううん、これってボクいくつくらいだろう。
ご近所のキョウちゃん…記憶が薄いってことは、もろ幼少期、三、四歳くらいかな。
そんでもってレモはうーん…六歳くらい?
話し方からして土台は出来てるみたいだけど。
『これ、レモに一個あげる』
『でもキョウちゃんから貰ったものなんだろ?』
『うん、でも三つあるからひとつあげる』
うわボク優しい。とか自分で言っちゃ駄目なんだろうな。
小さい頃のボクはとてもはにかんでいて、すごく嬉しそうだ。
それがレモにも分かったみたいで、彼は、
『克也はキョウちゃんのことが好きなんだね』
とかませたことを言っている。
『うんだいすき。レモのこともすきだよ』
『僕も克也のことすきだよ』
『えへへ』
レモもすごいはにかんでて可愛い。
ボクが水着のことではしゃいでいたときのしらけっぷりは、この頃からは考えられないね。
『キョウちゃんもレモみたいに髪ながいんだよ』
『知ってるよ、可愛い女の子だよね』
『どうして知ってるの?』
『だって克也が知ってるから』
『へぇ〜そうなんだ、レモはぼくと仲良しだもんね』
幼少期ってすごく理論を超越してるよね。
『ねぇレモ、レモの髪貸して〜』
『…いいよ』
あ、なんかちょっと今、間があったんだけどレモ。
そういえばまだこの頃のレモは三つ編みしてないんだ。
単純に一つに結んでるだけ。今の志賀君みたいに。
『いたいよ、克也』
『ごめんね、レモ。ちょっと我慢して』
たどたどしい手付き。こりゃ痛いよ。
レモ幼くても大人だなぁ。ボクだったら怒り出してるよ。
『うんしょ、あ、できたあ』
『なにができたの?』もうレモ投げやりだね。
『三つ編み〜。キョウちゃんいつも三つ編みなんだよ。すごくかわいいんだ』
乱雑な三つ編み。だけれどボクは満足していたみたい。
『かわいい〜、レモすごいかわいいよ〜』
『でも三つ編みって女の子がするものじゃないの?克也』
『レモなら大丈夫だよ〜。ねぇ、これからはずっと三つ編みしててよ』
『ええ、なんで』
『いいじゃん、レモずっとここにいるなら恥ずかしくないでしょ?いいでしょ、ね?』
ずっとボクの夢の中にいるっていうのも、何だか今考えると残酷な気もする。
勿論、当時はそんなこと考えてもいなかったんだよ、確か。
そこまで気が回らなかったし。
『ええ〜』
『ねえってば。せめてぼくが大人になるまで!いいでしょ、レモ〜』
『もう、分かったよ。克也が大人になるまででいいんだね?』
『わーいやった。レモだいすき!』
幼いボクは幼いレモに嬉しそうに抱きついている。
レモも満更ではなさそうだけれど、やっぱり表情は複雑そう。
…いやなんだろうな。ボクでも嫌だよそんなこと頼まれたら。
『約束だよ、レモ!』
『約束だよ、克也』
指切りの約束。
きっとレモはこのときのこと、まだ覚えてくれてるんだろうな。
それなのにボクは全然覚えてないとか、…ごめんねレモ。
でもボクも後少ししたら大人になるから、どうかそれまで待っていて。
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