ふわふわふわ、と夢を見た。
だけれど目覚めたら覚えていなくて、真夜中だったこともあり、ボクは二度寝した。
「そこまでは、僕らの干渉範囲じゃないよ、克也」
それでボクって何の夢を見ていたのか気になって、…なんとなく気分の良い夢だったのは覚えていたから、レモに聞いてみたらこの返事。
夢幻派って名前だからもしかしたらボクの見た夢くらい知ってるかと思ったんだけど…。
「まあ覗こうと思えば覗けるけど、それじゃあ克也の気分が良くないだろう」
そうだね。でもやっぱり、覗けるんだね…。ボクのプライバシーっていったいどこに行ってしまったのやら。
え?レモはボクでしかないんだから問題ない?
うぅん、でもさ、やっぱり人格を持っちゃったらしい時点でボク的にアウトだと思うんだけど。
いくら小さい頃から一緒にいたとはいえ、そのボクもお年頃だから隠したいことも色々とあるわけで。
……まだないけどさ。
「夢幻派がボクの夢を覗けるのは分かったけど、ボクはレモ達が何かしてるのを覗いたりは出来ないんだよね」
「今こうして見てるじゃないか」
「そうじゃなくて、なんていうか、ボクが此処にいない間の此処のこと」
「まあ外から中を見るのは無理だね」
…なんだか今、すごく当たり前のことを言われたような気がする。レモの顔にもそう書いてあるし。
でも外にしても中にしてもボクがボクを見ようとして見れないってどういう理屈なの?
「体内が見れないのと同じことだよ。克也の眼球は外側しか見れないような位置にあって、眼球は眼球自身の内側を見ることはない。」
ボクの頭はそういうことを聞かされて一瞬パンクしそうになる。
…まあ、なんとなく分かったけど、レモ達はそういう物質的なものと同じ説明でいいの?
体内に属する彼が言うのだから事実なのだろうけれど。
…同じ体内派だとしても、もし心臓とか胃袋に意思があってこんなふうに会話することになったりしたらシュール極まり無い。
「ところで、志賀君のことなんだけど」
そろそろ話を切り替えよう。だけれど、レモは志賀君という単語が出ただけで目をつり上げる。
夾子とレモの関係から薄々気付き始めた。というよりボクが鈍過ぎただけで、夢幻派と深層派ってかなり仲悪いの?
散々レモから注意は受けて来たし、なんだっけ?「深層派は克也を飲み込もうとしている」とも言っていたし。
そもそも志賀君はボクにその…二度ほど手を出そうとしてきたわけなのだけれど、それでどうやってボクの身体を飲み込もうって言うの?
「飲み込むというのはあくまでも比喩表現であって…」
レモがまごつき始めた。こうなると確実に曖昧模糊るんだよね。
そう言いたげなボクの視線を受けてか、レモは二、三度瞬きをして考える素振りを見せた。
うん。レモは少し考えてから話した方がいいよ。自然に任せるままに喋るともやもやになるみたいだから。
「現在、克也の中の派閥間の勢力は拮抗した状態にあるんだ。それで安定しているのなら我々も文句はないのだけれど、どうやら深層派はそうではないらしくて、体内の優先権を得たがっている」
「優先権?」
「…。克也の世界の言葉で言えば支配権かな。…とにかくそう、僕はあまり生々しいことは言いたくないのだけれど、克也の…その…精液に触れると、精神体の活力が高まって…内側から克也の身体を支配することが可能になるという、ね」
ぶは!ちょ、ちょっといきなりそんなセクシュアルな単語出さないでよ!気恥ずかしくなるじゃない。
と、ボクはそう言おうとしたのだけれど、レモの表情は至って真面目。
ていうか支配されるって、ボクすごい困るよそれ。
ていうか、ちょっと待って。
「そそそそそれって、出すだけで駄目ってこと?」
「……まあそういうことかな」
出すだけで駄目って、困る、すごい困る!
だって将来もし夾子とってちょぉっとボク何考えてんの冷静になれわああ。
「…そこのところは心配しなくとも、そういう影響が生じるのは各派閥の首領だけなんだよ、克也。まあ、持ち帰られたら同じことかもしれないけれど」
あ、……それはよかった。いや、全然よくないけど。
持ち帰る持ち帰らないとかレモも生々しいからやめてよ!今日に限ってなにその具体性。
「僕だって本当はもう少しぼかしたいさ」
うう分かってるよ、はっきりした説明を求めたボクのせいだっていうことは。
「ところで、シガのことで別に聞きたいことがあるんだろう?」
「あ、うん」
そうだよ、こんな露骨な話をしようと思ったわけじゃないんだった。
ああでも、今の話を聞いた後だとなんだか言い出しにくいかも…。
「その…志賀君って本当にそんな…悪い人なの?」
そらまた目がつり上がった。
多分レモにしてみれば、今説明しただろうってことなんだろうけど。
つまりは、レモが気分を害するような人なんだよってこと…志賀君が。
「あいつは深層派の首領だ。良いわけがない」
ボクを支配したがる派閥の代表ってことだもんね……そりゃそうか。
「でも、夾子も志賀君もそんなに悪い人には思えないんだけど…」
「でなければ、どうしてシガは克也を襲おうとなんてする?」
う。それもそう。
だけど、ならどうして今日とか彼は優しくしてくれたんだろう。
ボクを油断させようとかそういう寸法なのかな。
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