36.双子






「白夜は好きな子いるの?」
唐突に彼女は尋ねる。病院の生活にうんざりしたのだろうか…白夜は口籠った。好きな子?いるわけがない。そう答えると姫はふふ、と口を手で押さえて笑った。「ならその首のキスマークはなんなの?」さすがに頬に朱が上った。如月が白夜に仕返ししたときに付けたに違いない代物。あの馬鹿…!と、内心罵る。
「これはあれだうん。蚊だ」
「今の時期に蚊?」
「それかダニかもしれねえけどよ」
月咲家の畳にダニがいるかと聞かれると甚だ疑問ではある。あの家は無駄に掃除が行き渡っている。
姫はそう、と軽い相槌を打って口を閉じた。もっと突っ込まれるかと思っていたのに意外である。
彼女は白夜をじっと見て、顔を傾けた。
「ちょっと一方的な話になるんだけど、聞いてくれる?」
「?ああ…」
「私、あの馬鹿のことが好きなのよ。俗世間で言う恋をしているの」
馬鹿?如月、それとも芦辺か。陽炎もそして白夜自身も馬鹿だが姫が馬鹿と呼ぶのは限られている。
「…芦辺か?」
「そう」
「……そう、なのか」
信じ難い。俄には信じ難い。白夜は頭を抱えたくなるのをじっと耐え、姫に視線を向けた。
「あいつのどこが…その」
良いのか。白夜にとって芦辺は如月の元彼兼幼馴染みで陽炎の恋人という厄介で危険なよく分からない人物という認識しかない。すると姫は静かに微笑した。その微笑み方は活発で負けん気の強かった彼女らしくなかった。…病院生活の影響だろうか。
「全然良くないわ。良いところなんて全然ない」
「…なら」
「ただ…分かるかしら。幼い頃の認識ってそう簡単にひっくり返らないのよね。むしろその頃が本当で今が紛い物みたいに感じるの」
「……」
…如月の幼馴染みだった芦辺と姫が幼い頃に交友があっても何ら不思議ではない。
「こうして毎日病院でやることなんてないと、自然と昔のことを考えちゃうのよ。それでつい喋りたくなっちゃったのかもしれないわ。白夜って妙に何でも話したくなっちゃう雰囲気があるし。得よね」
「…得かどうかは知らねえけどよ」
ただ、「なんでも話したくなっちゃう」雰囲気があるのだとしても、その効果は人を選ぶらしい。陽炎や如月は効果がないのか基本的に黙りである。
陽炎は出会った当初はそれほどでもなかったのだが、最近になって少し分からないことが増えてきた気がする。本当にあったことを誤摩化すのはまあ陽炎なりの事情があるとしても、以前とは何かが違う。それが何なのかは上手く説明出来そうにないが、良からぬことであると直感は告げている。不穏なもの。
逆に如月は出会ったときよりも多少分かってきたような感はある。異様なまでに捻くれているが、行動は単純明快で分かりやすい。しかしやはり、何か…壁がある。先日の取り乱し方も尋常ではなかった。発作を陽炎に知られることをひどく恐れているかのような。あれは迷惑を掛けるだとかそんなことを心配する態度ではなかった。そもそもあの発作という代物が何なのか…喘息などといったものとは違う。
「花芽宮。一つ聞きたいことがある」
「望のこと?」
「…どうして分かったんだよ」
姫は皮肉めいた笑みを浮かべた。…静かに笑われるよりはずっと良「だってそのキスマークつけたのあいつでしょ?」脳味噌が湯気を立てて沸騰した。
「は、はあ?」
「あら、違うの?」
「…違わねえけどよ」
不承不承ながら肯定する。嘘をついても仕方がないし、白夜には女の影がないため相手は自ずと限定される。陽炎と勘違いされるよりはマシか、と思いかけて何がマシなのかと白夜は目を白黒させた。口を覆い、自分が考えたことを咀嚼しなおす。痕をつけたのが陽炎だったら冗談じゃないが、如月だったらまあやむを得ない?…慣らされているのか。いったい何が良いものか。良くはないだろう。
「あいつ、あんたみたいなタイプ好きそうだものね」
「いや、あいつは明らかに僕を嫌ってるだろう」
嫌いだと言われた覚えはあるし、信頼しろと言えば「誰が」と返って来る。「誰が」の後に続く言葉として自然なのは「するか」である。つまり如月にとって白夜は信頼するなんてそれこそ冗談じゃないという相手に認識されているのだろう。芦辺にも「お気に入り」だとか言われたことはあったが、お門違いも甚だしい。
しかし白夜が以上のことを説明すると、姫は唖然とした表情を浮かべた。
「…あんた本気で言ってるの?」
「…頼むからその僕の正気を疑うとでも言いたげな顔はやめてくれ」
「だっていくらなんでも私でも分かるわよ。ああでも、昔からの知り合いだからそう言えるのかもね」
「だから何が言いたいんだ」
「言わないわよ。私があいつにボコられるじゃない」
「ボコ…って、なんなんだか、ったく」
兎角周りは勝手なことを言いがちだ。白夜はがしゃんと椅子に腰掛け、腕を組んだ。話を本題に戻す。
「…それで、聞きたいことなんだが。あんたは如月の発作について何か知ってるのか?」
「発作?」
「…知らないのか」
となると、後天性のものなのか。それとも姫がいるときに起こしたことがないだけなのか。義理兄妹といえ、同じ屋根の下で暮らしているわけではないのだ、その可能性は十分に有り得た。他人である白夜からしてみれば、実に面倒くさい家族関係だ。姫の母親は若い男なら嫌いではなかろうし、いっそ如月も淡華町で姫と同居でも何でもすれば良いのである。しかし年若い男女同士を、義理とはいえ元は他人なのだから云々と白夜には分からない問題もあるのかもしれない。
「なら良い。悪かったな」
「ちょっと待ってよ。まだ何も言ってないじゃない。発作ってあの出血するやつ?」
「は?」
「あら違うの?…このやり取りさっきもしたような気がするけど…なら良いわ。余計なこと言ったみたい」
「ちょ、それこそちょっと待てよ」
何なのだこの妙に噛み合わない会話は。相手は月咲でもあるまいし、白夜は自分のコミュニケーション能力が著しく低下してしまったかのような気持ち悪さを覚えた。確かに「は?」ばかり言っていて会話にはならないだろうが、それほど彼女の発言が突飛なのだ。いきなり出血するやつ?と言われても分かるはずがない。
「何なんだ、その出血するやつ?ってのは」
「…本当にあいつ器用なことするのね」
「おい、聞いてんのか?」
「聞いてるわよ。出血するやつ?ってのは、…なんて言ったら良いのかしら…、…本人に聞いてみてくれる?」
「あいつが聞いて素直に答えるような奴だと思ってんのか」
もやもやする。陽炎も如月も姫も白夜に対し隠し事ばかりしている。姫は聞けば答えてくれるだろうと思っていたのだが、当てが外れた。
その不満じみた感情が顔に出ていたのか、姫は眉を寄せた。
「勘違いしないでよ。言わないわけじゃないわ。単に説明し難いのよ。私も詳しいことを知ってるわけじゃないから」
「…分かった」
それでもどこか姫は口を噤んでいる気配がある。しかし、聞いても無駄だろう。ならば他に……一応…如月が答えかねた質問だけでもぶつけてみるか。芦辺を好いている姫にとっては酷な質問かもしれないが。
「芦辺は十年前に既に人を殺すことが可能だったと思うか?」
姫は白夜が逆に拍子抜けしてしまうほど、ぺろりと言った。
「…あいつならやるんじゃない?十年前…はもう会わなくなってた時期だから断言は出来ないけど」
…=芦辺は陽炎の仇である可能性は十二分にある。如月はそれを知っているのだろうか。知っていて黙っている?陽炎に対する異常ともいえる献身的な態度はその裏返しなのか?…何か、まだぴったりと来ない。それなら如月が仇の張本人であることの方が現状にはしっくり……
(…それは如月が一般人じゃねえってことなんだぞ)
そしてそれが暗に示す答えは。発作、出血?…なんだそれは。馬鹿な、…馬鹿な。何度馬鹿なと繰り返しても足りない。落ち着け。それはもとより有り得ないことではなかった。十分に有り得たことだが、有ってはならないことでもあった。何故か?陽炎の馬鹿があれを好いているからだ。それ以外に理由なんていらない。
陽炎は仇に対し異様な感情を抱いている。それは眼を見れば分かる。彼の瞳の奥には狂気が見え隠れしている。初めて会ったときから気付いてはいた。彼は一見すると凡庸な術者の少年以外の何者でもなかったが、その内側に秘めるのは決して凡庸な感情ではなかった。そして近頃感じる不穏なものは、その狂気が端を発しているようでならない。
陽炎には常識がある。理性がある。人がどういうものであるかは理解している。だからこそその狂気は精神の裏側に潜むことが出来る。しかし何か些細な切っ掛けさえあれば、それは理性を侵蝕し始める。それほど陽炎の理性は脆い。

如月が仇だと知れば、陽炎は頭がいかれてしまうかもしれない。

そこまで考えて、飛躍し過ぎだと頭を振る。
まだ芦辺が陽炎の仇だと決まったわけではない。如月が陽炎の仇だと決まったわけでもない。何もかも推測の域を出ていない。あまりにそれらしくまとまってしまいそうになるから、白夜自身それが真実であると思い込みそうになっただけだ。
ただこの仮説は、本人に突きつけるだけの価値はある。
しかし突きつけていったい自分がどうしたいのか、白夜は分からずにいた。











奇妙である。珍妙ですらある。
あの青年が待ち合わせに遅れるということはまずない。彼は飄々としていて掴みどころのない男だが、案外生真面目な面を持っている。なのに、今日に限って遅れている。仕事が忙しい?彼は仕事をことも踏まえて待ち合わせ時間は指定してくるはずだ。ましてや、遅れるとしても連絡を入れてくるのが常。
…電話をかけても応答はない。何処かで行き倒れにでもなっているのだろうか。それもまたらしくない話だ。
如月に電話をかけ、彼がいまどうしているか知らないかと尋ねてみる。答えはNO。陽炎の話を聞いて、彼も困惑している様子だった。こちらからも連絡してみます、と彼が言って電話が切られたのが今しがた。折り返しの電話はすぐにかかってきた。
「…樹乃のところにいるそうですが」
月咲さんのところ?と訝しく思って聞き返せば、彼も困惑を隠し切れない声色のまま、そうです、と言った。
分かりましたと言って電話を切る。彼は釣り人の青年の幼馴染みである…月咲と知り合いでもおかしくはない。だが何故。
陽炎は月咲に直接連絡をとることにした。
「…もしもし?…日向です。響さんがそちらに行ってないでしょうか?…いる?」
月咲の声は普段と何ら変わりない。…響は今臥せっていて電話には出られない……彼はそう言った。
何故だろう。何かが気に入らない。これを単純なる嫉妬だと割り切っていいものか。
「如月さんのことも心配なのに、響さんのことまで気にして大変ですね?」
嫌味を言ってみても月咲は安定している。『響とも長い付き合いだからな』。…安定し切っている。
「今からそちらに行っても?心配なんです」
『ああ…君が響と付き合っているのは聞いているよ。今何処に居るんだ?』
「吹條街です」
『分かった。すぐに移動させるよ。ちょっと待っててくれ』
途端に陽炎の周囲が揺らぎ出す。忽然と陽炎の姿はその場から消え去る。すぐ目の前に月咲が立っている。
「上がってくれ。彼なら奥の部屋にいるよ」
「…はい」
月咲は陽炎を招き入れると踵を返し台所の方へ向かって行った。その後ろ姿を見送ってから、陽炎も指定された部屋へと歩き出す。一番奥の部屋…来客用の部屋の一つ。軽いノックをして、障子を引く。
布団に横たわった人影。臥せっている彼。眠っているのか陽炎が入って来てもぴくりとも動かない。いつも軽い身のこなしで動く彼ばかり見ている所為か、眠っている彼には酷く違和感がある。
「多分明日の朝方まで起きないだろう」
す、といつのまにかやってきていた月咲が陽炎の前にお茶を出す。陽炎はそんな彼を上目遣いで見上げた。
「…響さんはどうして…」
「医者は過労だと言っていたよ」
「過労?」
月咲は静かに戻って行った。…過労。彼は疲れていたのだろうか。顔が曖昧なのを良いことに、彼の表情を窺うのを怠ってはいなかったか。だがそれ以前に、彼はどこか人間味に欠けていた。軽い疲労はあっても、平気だろうと思わせる何かがあった。
表情…手を伸ばして眠る彼の頬に触れる。長い前髪がうっとしそうな。少し退ければ、整った輪郭や鼻筋が露になる。…おかしい、奇妙である。今日は彼の顔がぼやけない。彼がどのような顔立ちをしているのかしっかり見て取れるし記憶にも残る。彼が眠っているからだろうか…つくづく可笑しな話だ…陽炎は顔を近づける。右目。…傷がある。刃物で切りつけられたかのような筋が二つ。年月はだいぶ昔のもの。そっと触れてみる。月咲の言う通り、目覚める気配はない。無防備だ。なんて、いつかも思ったことを思う。…誰に対し思ったことだったか。
頬を撫でる。愛おしさとは違う。形の整った造形に惹かれる。触れてみて初めて生ずる欲。彼と自分は付き合っているのだから、至って普通のことだ…これまでが普通でなかっただけで。
彼の前髪がはらりと落ちる。その瞬間、息を呑んだ。
「…あ……」
言葉を失くし、ただ魅入られたかのように見つめ続ける。それくらい唖然としていた。自分の目が信じられなかった。見覚えのある寝顔。きっと眼を開いたらもっとよく分かるだろう、と心の声が囁く。酷似した顔立ち。まるでそう、双子のように。双子?
手を服と首筋の間に差し入れ、ぐっと覗き込む。包帯。出血している。彼のナイフが切りつけたのと同じ位置で。
「………」




朝。彼が目覚めた。
彼は日の光に眩しげに眼を細めて、それから陽炎の存在に気がついた。
「陽炎君」
状況を理解するのに数秒要してからも、首の緩んだ包帯に手が当たると、彼は息を止めた。
陽炎はそれをじっと見ている。一つ一つの動き、仕草、その息遣いさえも見逃さぬよう眼を皿のようにして見つめていた。
彼は陽炎を見上げた。そしてつまらなさそうに笑った。
「そうか。分かっちゃったのか」
「はい」
「予定していたより早かったね。本当はもう少し君と遊んでいたい気分だったのに…」
彼は微笑んでいる。不思議と苛立つ気持ちは湧かず、正座をして彼が話し出すのを大人しく待つ。
「君は何処まで知ってるんだい?」
「あなたがあの人によく似ているということまで」
「ああそう…そりゃあそうさ。似ているのは当たり前だよ、血が繋がってるんだから」
「そんなこと言ってなかったじゃないですか」
「でも君は無意識のうちに気付いてはいたろう。でなければ私を選ぶことはなかった」
慰める相手が欲しいだけなら、彼でなくとも良かった。そうなのかもしれない。どんなに理由を並べ立てたところで、いずれも正しいだけで決定的なものではなかった。結局は彼が「彼」に似ていると、自分では気がつかぬうちに感じていたのかもしれない。
…そしていま、陽炎はどうするべきか。
「俺はあなたを殺しますよ」
「どうして?」
「…どうしてって」
彼はくすくすと肩を震わせて笑っている。余程間の抜けた顔をしてしまっていたのだろうか。とはいえ、この状況でまさか「何故」と問い返されるとは思わなかったのである。彼はそれから唇の端をくいっと持ち上げて、陽炎を見た。おそらく彼は霧がかった仮面の下でいつもこのような表情を浮かべていたのだろう。それくらい自然だったし、違和感も抱かなかった。ただ、「彼」とは表情が似ても似つかない。
「ねえ、陽炎君。君は以前の殺気立った感情を何処に置いて来てしまったんだい?」
「え」
「仇を殺したくて殺したくてうずうずしていた。なのに今は、私に手を掛けようともしない」
呆気にとられているから。そう言いたかった。けれど彼の首の傷を見てから、もう一晩経過している。動揺なんて収まっているはずだった。…彼を殺さなければ。彼は自分の家族を壊したのだから。有るはずだった幸せを粉々に打ち砕いたのだから。あの苦渋に満ちた年月を忘れたのか?
それなのに。それなのに、何なのか。何なのだこの感情は。どうしてこんなに落ち着いている?まるで初めから何もなかったかのように静寂が心を包み込んでいる。分からない。けれど病院の屋上で彼に逢ったときから、心はぽっかりと穴が空いて、そこから何かが抜け落ちていってしまったかのようだった。ひたすらに、彼を見た。彼の血に魅入られた。何もかも歪んだ、自分が分からなくなってしまった。彼を痛めつけることを夢想しては汚れた欲望に取り付かれる。その繰り返し。連中以上に自分はとち狂ってしまっているのではないかという不安に駆られる。
「響さん、俺はおかしいんですか」
「…君はもともとおかしいよ」
頭を抱える。脳の奥から警鐘が鳴り出す。とんだ絶望の波に叩き付けられそうになったかと思いきや、感覚がぐいぐいと上昇し始める。視界に彼の首の包帯が映ってぶれる。その包帯を引き裂いて塞がりかかっているであろう傷を無理矢理こじ開けたい。その澄ました顔を苦痛に歪ませたい。呻き声が聞きたい。
「陽炎君」
声も同じだ、と今更思う。ハッと暴走しかけた思考に歯止めをかけて、彼の顔を見上げる。微笑んでいない彼の表情は整っているが故に冷徹ささえ感じさせる。何を考えたか、思わず腕を伸ばして抱きついてから、自分が思っていた以上に目の前の青年のことも好いていたことに気付く。彼は身じろぎもしない。
「響さん」
「なんだい」
「俺、あなたのことも好きです」
「…そりゃあ良かった」
「…一応恋人なんですから、私もだよ、くらい言ってください」
彼は身じろいだ。
「……私も君のことは好きだよ」
彼の言葉に満足して、名残惜しみながらも身体を放す。彼を殺そうか。父のことを考える。…どうもしっくり来ないのは何故か。
記憶の中での殺人狂と目の前の青年の姿が一致しない。彼ならば躊躇せずその場に居合わせた子供も殺していたはずだろうに。
「…あなたはどうして今、俺を殺そうとしないんです?自分が殺されるかもしれないのに。俺には殺せないとたかを括っているんですか?」
「そういうわけじゃない」
「なら、何故」
問い詰めれば彼は乾いた笑いを漏らした。軽く右目を押さえてから、その手を膝の上に下ろす。
「…ところで君は、何故望が君をあんなにも気遣うのか、考えたことがあるかい?」
「もちろ…」
勿論、と言いかけて、身体中の血がざわめきだす。沸々と悪寒が皮膚の上を這い回る。
…その話題を、この状況で持ち出すことの意味合いは。
「…何が言いたいんですか」
「自分でちょっとは考えてごらん」
彼は曖昧に微笑した。血管内を血液が暴れ回り、息苦しい。