25.甘き痛みの夢
姫はカフェで紅茶のケーキにフォークを突き立てながら、先程までの激情を思った。
つぶれかけた和菓子を、紙袋の内に収めて、僅かに眉を寄せる。あれはあの義兄に対する嫉妬だったと、認識しかけて打ち消そうとする心がある。そんなものは抱いても意味のない想いなのだと知っていながらも、その小さな炎は胸の奥底に燻り続けてきた。十分過ぎるほどの決定打を貰いながらもいつまでも居続けるこの気持ちは、いったい何を考えているのだろう。
むしろ感覚が麻痺しているに違いない、と彼女はケーキを切り崩した。
麻痺しているくせに、苛立ち、心の波が荒れ狂う。厄介極まり無い感情だった。抑圧しておけば、いつか消えるものだとばかり思っていたというのに。
彼女は味のないケーキを胃袋に流し込みかけ、途端に変化した周囲の景色に目を見張った。
「…え……!?」
手に持っていたフォークも、ケーキも跡形もなく消えている。
あるのは姫がもともと持っていた鞄と袋だけで、他は何もなかった。
(どういうこ……、……)
混乱しかけた頭はすぐに状況を察した。
場所は宇渋町の外れ。人気はなく、木々のざわめきだけが姫の耳に浸透する。
…彼女は、何者かによってカフェからこの場に移動させられたのだ。
そしてそのようなことをする人間など、彼女の知り合いには数えるほどしかいない。
「…なんのつもり?…」
姫は困惑しながらも、その動揺を声に、態度に現すまいとした。
彼女にとって、そういった態度を見せるということは、己の弱さを露見させることと同義であったのだ。隙を見せてしまえば最後、鬱積していた感情を爆発させてしまう恐れもあった。この決して、彼女自身認めたくないと思っている『感情』を。
「君に話したいことがあるんだよ」
姫、と彼は甘ささえ感じさせる声で彼女の名を囁く。
気配はなくともその声のした方向を見遣れば彼の姿がある。彼女はぐっと息を飲み込み、彼が歩み寄ってくるのをただただ見ていた。突っぱねてしまわない姫の心情を嘲笑うかのように、彼の口元は緩やかに弧を刻む。
「私の言いたいこと…君だって、全く予想出来ないわけじゃないだろう?」
指先に姫の髪を絡ませ、弄ぶ。
自分の髪先に彼の唇が触れたとき、姫は大きく肩を震わせそうになった。胸の痛みを覚えるほどに、心臓が落ち着きなく跳ね回る。口内は渇き、彼の一挙一動に姫は極度の緊張状態を強いられた。
以前なら振り払ってしまえたであろう彼の行為も、彼の片割れの存在により自分の心が酷く不安定になっている所為か、はたまた彼自身が常日頃とは『違って』いるからなのか、どうしても拒否することが出来ない。
「…そんなの、分かるわけないじゃない…っ」
「本当に?」
彼の声が笑みを含む。姫の心はぞわりと粟立った。
毒を持った甘さが、身体中すべての神経を駆け抜け、薄暗い悦びが滲み出る。姫はこれまでにも何度か、その自分の内側に纏わりつく悦楽を嫌悪し、振りはらおうとしたことはあった。
しかし…出来なかった。
何故なら、まるで彼は治りかけの傷口を抉るように、たびたび彼女の前に現れては彼を忘却しようとする心を掻き荒らして行くからだ。
それなのに。
「望のこと。どうして君は彼を困らせるような真似をするのかな、と思ってね」
この男は、あの片割れの男のことしか頭にないのだ!
姫は屈辱と嫉妬が混じりに混じった気持ちを抱えながら、そんな二人の姿を見てきた。
今だってそうだ、考えるだけで頭が痛くなりそうだった。
「ねえ、姫」
甘く愛おしむような声色で、彼は彼女の名前を呼ぶ。
その様子は酷く愉しげで、姫は瞬きも忘れてその端正な顔立ちに見蕩れた。
しかし、やがて彼の瞳には、残虐な色が映し出された。
「彼を追い詰めるのは許さない。そうだろう?…そんなことをしていいのは…私だけだよ」
髪先を弄んでいた指先はするりと離れる。
微かな淋しさに姫は言葉を詰まらせ、彼の声を聞くまいとした。
そして、
「なんて…君は言っても聞かないから。……少し、お仕置きが必要かな」
ヒュッと何かが掻き切れる音とともに、血飛沫が赤い雨となって舞い散った。
彼が自分を助けたのだと聞かされて、まただ、と陽炎は思った。
かれこれ何度目なのか、頭が上がらない気持ちになる。だがその件とは話が別だと自らを鼓舞し、陽炎は顰め面をしたまま如月に背中を向けて座っていた。ちなみに、白夜には再び席を外してもらっている。
「如月さん」
「…はい」
「如月さんは俺に謝ろうとしたけど、俺は別に謝ってほしいだなんてこれっぽっちも思ってません」
関係ないと拒絶されたこと。
そのこと自体を非難することなど、果たして陽炎に出来ただろうか。
…自分は貴方に関係があるのだなどと、そんな図々しい態度をいったいどうしたらとることが出来たろう?絶対的な繋がりどころか、強固な絆を紡ぎ結ぶことすらも決して簡単なことではないというのに。
「だって関係ないのは事実なんだもの。…だけど」
淡いながらも切れそうにはない糸が、彼と自分の間にはあるような気がしていた。そしてそれは、信頼という名のものから生まれたものだと思っていた。
「俺は貴方に関係のある人間になりたいと思った」
だけれど、それを一方的な信頼だったのだと、陽炎は思い知らされたのだ。彼がやむを得ず見せた、冷ややかな一面。あくまで他人行儀にしていたのは、彼は陽炎など信頼していなかったからなのだと。
「俺は…貴方に少しくらいは、信頼されている人間に…なっていたかった」
…信頼さえしていれば、関係ないなどとも言えなかったろう。
陽炎はそう思った。思って、心は深く沈んだ。
淋しくて疎ましくて、悲しみの中には達観したかのような虚しさしか探し出せなかった。胸が引き裂かれたかのような痛みすら鈍く、その空虚さに薄く混じってしまったかのような。千切れそうな細い痛みだけが、ちりちりと胸を切り破いた。
「……違うんです」
だから、彼の発した否定の言葉にも反発した。
彼が陽炎を信頼していなかったのは、明らかだったではないかと。考えれば考えるほど、そうだと思わざるを得なくなっていた。
「…俺は、…陽炎君を自分とは関係のない人間だなんて考えているわけでは…ないんです」
「そんな慰め、言わなくていいですよ」
余計虚しくなってくる。陽炎は立ち上がり、如月と向き合った。
彼は沈痛な面持ちで首を振った。
「信じてもらえずとも無理もありません。ですが、例え咄嗟に出た言葉であろうとなかろうと、…俺は貴方を傷つけたくはなかった」
「…どうしてですか、俺が年下だからですか?」
傷つけたくないと言われて純粋に嬉しいと感じる気持ちはある。
だが何故彼は陽炎だけを、そのように気遣うのか。雲を掴むような実体のなさ。自分だけ疎外されているという事実。その苛立ち、焦りにも似た気持ちが、陽炎の言葉を尖らせた。
「四つ下、でしたっけ?如月さんは俺を他人どころか子供扱いしてる。やっぱり、子供は傷つけたくないと思いますもんね?」
「かげろ……」
「それとも同情ですか?俺が親を殺された可哀想な子供だから、傷つけるなんて惨いことは出来ないってことなんですか?」
彼は同情の眼で陽炎を見たことなどなかった。
陽炎自身、それは分かっていた。分かっていながら、止まらなかった。過剰な反応をしているとしか思えない自分を、彼にひっぱたくなり殴るなりして止めてほしかった。自分は神経を逆撫でするとしか思えぬ言動をしたのだから、姫にしたように乱暴に、彼が自分を押さえつけてくれたら良いと思った。
しかし。
「……申し訳、ありません」
如月は眼を伏せて、指一本陽炎に触れようとはしなかった。
それどころか、弁明もせぬその態度は、陽炎の暴言を認めているとさえ取れる。
「どうして、なんで…ですか」
陽炎は胸に空洞が空いたかのような鈍痛に、喘いだ。手を伸ばし、彼の襟刳りを引き寄せ、無我夢中で揺さぶった。
「なんで否定しないんですかっ…!その年下に侮辱されて、なんで謝ろうだなんて思うんですか!?」
「…」
「理不尽なことを言われて、苛つかないわけがないじゃないですかっ、それで…っ殴れば良かったんだ!貴方にかかれば、俺を打ちのめすことぐらい簡単なはずでしょう!?」
陽炎は肩で烈しく息を繰り返した。
彼はきっと自分に手荒く接することはないのだろうということも、心の奥底では、分かっていた。だが実際に自分独りで空回りしてしまうと、より虚しさや憤りが心の中に降り積もった。
頭は血が上るどころか、急速に冷えてまるで吹雪が去った後のように沈黙によって支配されている。
「それでも、俺は貴方を傷つけるような真似はしたくない…できません。身体的になら、尚更です」
冷静さを取り戻した如月の声が、冷徹にすら感じられる。
そういった一面を知りたがっていたくせに、いざとなると嫌だと感じるだなんて、我ながら随分勝手なものだと陽炎は思った。勿論、彼は陽炎を傷つけたくないと言ったし、今とて冷静なだけで冷たいわけではない。
あくまで陽炎の心情が、彼の日頃と同様の平静さを疎ましく感じただけの話だ。
「…俺はよく分からない理由から、気遣われるのは嫌です。……それが貴方の言うように身体的であっても、精神的であってもね」
「年下だとかそういった理由も全くないとは言いません。ただ、俺が勝手に嫌なだけ、では納得して頂けませんか」
「年下でもなければ同情でもない。でなきゃなんだって言うんですか」
吐き捨てる。再会してからは、いくら話しても距離は全く縮まっていない。陽炎はもどかしさから、苛ついて苛ついて仕方がなかった。悲しみが、静かに胸底で澱む。
如月自身にこれほどまでの怒りをぶつけたことは、かつてなかった。
「…おそらく言っても信じて頂けないでしょうが、」
如月の声が微かに震える。
陽炎は黙って、彼が何らかの言葉を口にするのを、耳を澄ませて待っていた。
「俺は陽炎君のことを、…大事な存在だと思っています。だから、出来ることなら、…傷つけたりすることはしたくないんです」
「…」
「勝手なことを言っていることも分かっています。ただ、今日のところはこれでご容赦ください」
彼は心底申し訳なさそうに微笑み、陽炎の襟首を掴む手を緩めさせた。
その優しい触れ方と彼の言葉に、陽炎は一瞬反発しかけたものの、静かになった。たかが『大事』だとひとこと言ってもらえただけだというのに、安堵し、心に温かみが広がっていく。なんて単純なんだろうと思いながらも、陽炎は手を下ろした。
(…狡いよ……)
ゆっくりと如月の腰に腕を回し、その胸に頬を寄せる。
「…俺も、よく分からないけど、如月さんのことは大事です。多分、母さんよりも」
受け止めてくれる体温に、ほっとする。
陽炎はふっと瞼を閉じ、その体温を放すまいとするようにぎゅっと彼を抱きしめた。
--しかしその瞬間も、そう長くは続かなかった。
如月の携帯電話に、誰かから連絡が入ったのである。
「失礼」
彼は陽炎をそっと放し、背を向けた。
少し話したのち、彼は陽炎へと振り返る。
その表情は翳り、連絡が良い知らせではなかったことを窺わせた。
「…姫が意識不明の重体だそうです」
「…え……?」
「場所は宇渋町8-9-14。桴海君にもすぐ戻ってくるように連絡してください」
「は、はい」
頷いたものの、陽炎は現状をいまいち理解することが出来なかった。
(花芽宮さんが意識不明、どうして…)
白夜に電話で連絡しながらも、頭は真っ白で何も考えられなかった。
いったい何故、誰が何のために。
白夜は陽炎達と途中で合流、三人は姫が倒れていると聞かされた現場へと到着した。
如月が要請した救急車はまだ見えておらず、白夜は歯を噛み締め、
「いったい、どういうことなんだ」
と、姫の身体に視線を泳がせた。外傷は一目で分かった。
首が切られており、血が大量に流れ出していたのだ。傷の深さからして頸動脈にまで達している恐れもあり、彼は手のひらを傷口にかざした。回復術の黄色く淡い光が、姫の赤く塗れた皮膚を照らす。
「…くそ、怪我が酷過ぎる……っ」
布を押し当てた上、血を止めるのが精一杯で、皮膚や組織の再生まで術の力が回らない。次第に白夜の額に、汗がじっとり滲んできた。今にも消えそうな命の灯火を前に焦りだけが、白夜の中に積もっていく。
そこに、救急車が遅まきながらも到着した。
救急隊員によって姫は車内に運び込まれ、白夜も同乗する。
「俺たちも急ぎましょう」
陽炎と如月も、その後自らの足で宇渋町の総合病院まで向かった。
その二人が到着した頃には、手術室のランプが点灯し、白夜は一人廊下の椅子に座っていた。搬送中も力を送り続けたために、ぐったりとした疲労が肩にのしかかってくる。
「…桴海君、少し休まれた方が良いんじゃないんですか」
珍しい如月の気遣いに、白夜は首を振った。いくら疲れていようが、おちおち寝ていられるような心境ではなかったからだ。一方如月も心労の所為か、走って来ただろうにも関わらず顔色が悪い。陽炎もまた、どこか疲れた顔だ。白夜は陽炎に空き室で寝るよう促した。
「陽炎は休め。一度川で溺れてんだ、身体は回復してないだろ」
「でも」
「手術は当分かかる。起きててもやれることなんて何もねぇよ」
こんな言い方をしたならば、なら白夜さんも休めばいいじゃない、と陽炎は言い出しかねなかったが、意外なことに彼は何も言わなかった。
如月に一瞬だけ視線をやり、何やら如月も頷く。陽炎は「じゃあ…」と大人しく空き室へ入って行った。
くるり、と白夜は如月に向き直る。
「あんたもだ。陽炎の保護者面してねぇで休め」
「俺はそれほど疲れる役回りではありませんでしたから。桴海君こそ、ここでくたばっても何もしてあげられませんよ」
「僕の力はそのうち戻るもんだからいいんだよ」
如月は曖昧な微笑を浮かべ、白夜の隣に腰を下ろす。どうやら休む気はないようだ。白夜は、すいっと眼を反らして点灯する手術室の文字を見上げた。
いったい誰が、彼女をこんな目に遭わせたのか。
通り魔なのか、それとも。
「…心配なんですか、姫のこと」
「あたりめぇだろう」
如月の問い掛けに、白夜は視線を戻した。
彼は至って真面目な顔で、同時にどこか白夜の表情を窺うような態度でもって、言った。
「好きなんですか」
それが彼女の義兄としての立場から発せられたものなのかどうか、白夜には知る由もなかった。ただただ平静に、彼の眼を見返す。
「違う。人間として心配なだけだ。…あんただってそうだろう」
如月の眼からは、何の感情も読み取れない。
彼は数秒、訝しげに眉を寄せただけで、すぐに「勿論です」と薄く微笑んだ。
「ならあんまり馬鹿なこと聞くんじゃねぇよ」
言い捨てて、視線を一旦外す。
それからちらりと、彼の横顔を見遣った。
その面差しに、普段決して垣間見えることのない憂いの色が落ちる。
「俺にも」
「あ?」
「桴海君のように、誰かを助けられる力があれば良かったんでしょうか………」
彼らしからぬ頼りなげな声色に、白夜はその横顔を凝視した。
すると如月も、今頃になって白夜の視線に気がついたようなハッとした素振りで、反射的になのか微笑を浮かべようとした。その一連の表情の変化に、白夜は一瞬頭に血が上った。ほんの些細なことに過ぎないというのに、酷く気に障った。
「……それこそ、馬鹿なこと言ってんじゃねぇぞ」
今日だけでいったい彼に何度感情をぶつけたのだろう。
それは時として腹の底が沸々と煮えつくようなものであったり、冷たく這い回る不安をあやふやに吐き出すものであったり。そう思いながらも、白夜は如月を真っ直ぐに見据えた。
彼は、薄く微笑んで肩を竦める。
「…いま何か、俺は馬鹿なこと言いましたか」
「ああ、…本気で言ってんのなら殴ってやりてぇくらいだ」
「手術室の前でそれはやめて頂きたいですね」
あくまでも軽く受け流そうとする微笑。白夜は苛立ちのあまり舌を噛み切りたくなった。偽りの微笑みなどといったものは、所詮吐き気が込み上げて来るだけのものに過ぎない。白夜は、苛立ちをすべて吐き出すかのように、如月の言葉を徹底的に封じてしまうかのように、言葉を並べ吐き捨てた。
「あのな、人を助けるのに一般人も術者のクソもねぇんだよ。助けられる力があれば良かった?寝ぼけたこと言ってんじゃねぇよ」
「あの」
「陽炎から少し聞いた程度だけどよ、今日含めて、あんたは陽炎を何度か助けてやったこともあんだろ?あいつ無鉄砲だしな。なのに助ける力がないだ?ったくあんまふざけたことばっか言ってんじゃねぇぞ」
口を挟む暇もないほどの白夜の乱暴な話しっぷりに、如月が苦笑する。
「…励まして下さってるのは分かるんですが…もう少しソフトに言えないんですか」
「僕は思ったことを素直に言っただけだ。ったく、一日にこんなに馬鹿ばかり言ってんのは今日が初めてだぜ」
事実、これほど馬鹿な男に今まで会ったことがない。
白夜は頭を掻きむしり、ばんばんと座っている椅子を叩いた。
「もういい、あんた今日はもう寝ろ!」
「…此処で、ですか?」
「そうだよ。一人が寝られる長さくらいあんだろ」
ふいっと顔を背ける。
まさかこの飄々とした、一緒にいると苛々する強姦魔を励ます日が来るとは思ってもいなかった。気恥ずかしさのあまり顔に血が集中し、白夜は精一杯沈黙する。
(ええいくそ、こいつがらしくもなく弱音なんか吐くからだ!)
彼は眼を閉じ、腕を組んだ。
横では如月が僅かに逡巡する気配がある。
「…桴海君」
「なんだ」
どうせ寝るからもう少し詰めろだの言い出すのだろうと白夜は顔を上げた。闇の如き深さを持ったその瞳と視線が交わったと思いきや、彼は顔を反らし頬杖をついた。
「優しいんですね」
皮肉げな声色に、褒められているのか貶されているのか分からない。だが、弱音を吐いているよりはずっと彼らしいと白夜は胸を撫で下ろした。……同時に、弱音を吐いている方が『本来』の彼らしいのではないかという邪推にも似た発想が頭を擡げる。
そしてそれは、一瞬にして確信へと変わったが、だからどうなのか、と自問して白夜は肩すかしを食らったような気分になった。仮にそうであったとしても、その時々に応じてあくまで自分なりに接するだけの話なのだから。
何らスタンスに変化はない。
「優しいついでに、もう少し詰めて頂けませんかね」
「…そう言うだろうと思ってたんだよ」
おそらく彼も、彼なりのスタンスがあるのだろう。
それは当然のことではあるが、矢張り違いはあるから多少の摩擦は生じる。
(まあ結局、なるようにしかならねぇしな…)
今考えるべきなのは、この手術室の向こうにいる姫のことだ。
静まり返った病棟内で、白夜は小さく息を吐いた。