第十夜.蹂躙






ドアを前に立ち尽くす幹靖の姿。
「和雄…」
「…出て来ないのか?」
彼は静かに頷き、ドアに寄りかかるようにしてその場に緩やかに座り込んだ。口元に諦観の入り交じった微笑。
「岩崎くんは?」
「…岩崎は別に…」
口籠る。


…先程、幹靖が和雄を連れて部屋を出たのち、春弥は雫と向き合ったわけなのだが。
彼は和雄と口論した際、極めて冷徹な態度で和雄を精神的に叩きのめしたように見えた。しかし、
「…い、わさき?」
「……」
「!ぅっぐ…っ」
実のところ、彼は激怒していたのだった。
脛に強烈な一撃を受けて翻筋斗打った春弥は、起き上がる間もなく雫に腰を蹴りを食らわせられ、あまりの激痛に悶絶した。雫はそのまま春弥の腰の上に腰掛け、忌々しげに春弥の頬を抓り上げた。
「おい春弥…お前秋草が言ってたこと聞いてたか?」
「ぅうう」痛い。手加減も情けもあったものではない。
「俺はお前に依存してるんだと。それで俺はお前を好きで仕方がないんだそうだ」
春弥が聞いたのは、雫が和雄に対し容赦のない一言を浴びせかけたところからだ。しかしもしも、雫が言うようなことを和雄が言ったしまったならば、彼が激昂するのも無理はなかった。むしろ春弥としてはそれだけは言って欲しくなかった。…結果こうなるのだから。
雫は春弥以外の人間には物理的な暴力は振るわないし、振るったとしてもそれは手心の加えられたものだ。けれども春弥相手であれば潔いまでにその暴力は解放される。
「笑わせるだろう。お前のような卑劣で性根から腐った男を好いてるというんだからな」
「っ……」
「違うとでも言いたいのか?こんなふうに殴られると分かってて俺の傍にいるなんて、判断力のないただの馬鹿か変態ぐらいだと思わないか?」
眼鏡がズレて視界が安定しない。抓られた頬が麻痺して鈍痛を訴えている。
「まあお前の場合は」
「!」
出し抜けに雫の顔が近付き、息を飲む。同時に、股間を鷲掴みにされて全身が硬直した。頬が燃え上がるように熱くなる。
「救いようもない変態のようだがな」


「…おーい、鷲宮くんどうかしたのかなァ」
「!あ、いや…」
「顔が赤いけど」
「いや、いやなんでもない。岩崎はあんな奴だから特に気にした様子もなかったな!」
「なら良いけどな。…俺は岩崎くんの言うことも間違ってるわけじゃないとは思うからさ」
幹靖は中にいる和雄には聞き取れぬ程度の沈んだ声色でそう言うと、口を噤んだ。思わず頬の熱さも忘れて彼を凝視する。…つい先刻のことではなく、昼間あった会話のことを彼は言っているのだろうが、それでも春弥は驚きを隠せずにいた。幹靖ははたと我に返ったかのように顔を上げると、にこやかに微笑した。
「とにかく俺はもうしばらく此処にいるから、鷲宮くんはご飯の用意してくれば?」
「あ…ああ」
「本当は料理の下手そうな鷲宮くんより俺が用意した方が良いんだろうけどな」
意地悪げな響きとは裏腹に、彼の瞳には気遣わしげな色が見え隠れしていて、春弥は息苦しさに似たものを覚えた。何故なのだろう、彼はもっと嫌な奴でなければならないのに。








食卓は雫と二人。幹靖は和雄に何かあったら困るからと引き続き部屋の前から動かず、其処で食事をするとのことだ。
雫はノイズの半分混じったテレビ画面を眺めながら黙々と食事を胃に流し込んでいる。焼き魚が焦げていようが、人参のきんぴらが連なっていようが表情一つ変えることもない。実に作り甲斐のない男である。なのに食事を終えたのち、
「鷲宮」
「?」
「明日の朝飯は俺が作る」
ときたものだ。遠回しにまずいと言っているようにしか思えない。春弥は皿を洗う雫の背を横目で見ながら、テレビのチャンネルを回した。サデコがやっていたが、この状況では洒落にならない。窓の外に視線をやれば、何をトチ狂ったか煤の混じった赤色の雨がべしゃべしゃと降っている。この世界の自然現象は完全にいかれているとしか思えない。…そういえば櫻井は何処へ行ったのだろう。居ればなんとなく分かるのだが、今はこの家の中に彼の気配はない。
「…岩崎、お前風呂どうする?」
「俺は夜中に適当に入る。お前らだけで勝手に決めろ」
「…」
雫の協調性のなさは驚異的である。春弥は自分の皿を彼の後に洗い終えると、ぱたぱたと二階へ足を運んだ。
「幹靖、和雄は」
「当分出てきそうにない。食事もいらないってさ」
見れば手付かずの食事が一人分。もったいないので明日にでも回すとしよう。嘘か誠か、以前某ファーストフード店では冷めたものは残飯として扱うと聞いたことがあるが、いくら春弥の作った食事がまずかろうと一晩くらいは保つはずである。
「分かった。ご飯は明日に回す。ところで、風呂はどういう順番で入るかだとさ。雫は真夜中で良いらしいけど」
「ちょっと聞いてみる。…和雄!鷲宮くんが風呂入れってさ!」
幹靖はドアに耳を押し付けている。そうでもしなければ聞こえないほど返事が小さいらしい。
「………和雄はパスらしいよ」
「ならお前が先入って良いよ。俺が代わりに此処にいるから」
「否、多分和雄もぼちぼちトイレに行きたい頃合いだろうから、少し一人にしてやった方がいいかもしれない。それにいざというときは携帯あるから」
そう言うと幹靖は制服のズボンの後ろポケットから携帯を取り出し、春弥に放り投げた。すらりとした腰のラインに思わずどきりとする。…重症だ。
「入ってる間だけ持っててくれ。和雄にはワンプッシュで呼び出せるよう登録させてあるから」
「ああ…」
他人に携帯を預けるだなどと覗かれたらどうするつもりなのだろう。見られても支障はないということなのだろうか。
春弥は幹靖の携帯をポケットに、残った食事を運びつつ台所へと戻った。ラップをかけて邪魔にならないところへ置いておく。気温もそれほど高くないので冷蔵庫に入れておかなくとも問題ないだろう。リビングへと移動し、ソファで寝転がる。預かった携帯はきちんとテーブルの上に置いておいた。
どうにも現状は行き詰まっていると感じる。手掛かりは神のみ。ならば神を見つければ…しかし神が実際どういった姿形をしているのかも分からず、この地域に未だ留まっているのかも定かではない。神…櫻井。やはり櫻井から無理矢理にでも情報を引き出すのが手っ取り早いように思える。どうすれば彼の口を割らせることが出来るのだろう。…他の三人に、櫻井のことを話した方が良いだろうか。雫は見えないようだが他の二人はまだ確かめていない…。…雫。
「…っ」
雫のことを思い出し、触れられた場所がぐぐ、と熱を持つのを感じて、春弥は慌てて両手で押さえ込んだ。これはまずい、非常にまずい、大変まずい。どうする。冷ませるなら冷ますべきだし、無理なら無理でトイレなり何なりで処理すべきだ。しかし押さえ込んだことで逆にそこは”そういう気分”になっている。これでは雫に言われたように本物の変態ではないか。頬が猛烈に熱い。そもそもこの思春期に、一体全体他の三人は何故涼しい顔をしていられるのだろう。死と隣り合わせの生活だからか。逆にそういうときこそ、生物は子孫を残そうとするものではないのか。
春弥は冷静になろうと努めた。しかし他の三人のことを考えたのが失敗だった。想像が妄想へと変わり、身体中の血液が逆流しそうになる。
それもこれもダイレクトに触れてきた雫がいけないのである。春弥は責任を雫に押し付け、ズボンのファスナーを下げた。脳内は真っ白に染め上がり、この込み上げて来た性欲を如何に処理するかということで一杯になっていた。言うなればスイッチが入ってしまっている。
「……っ」
半勃ちになっている性器を握りしめ、上下に扱く。こうなると理性は崩壊しきってでろでろ状態である。歪な世界への恐怖も麻痺してしまう。
しかしタイミングの悪い人間というのはどんな時にでも居るもので、というよりリビングで始めてしまう春弥にこそ問題があるわけだが、…彼は現れた。
シャワーを浴びて傍目から見てもスッキリ爽快、ワイシャツに制服である黒のスラックスというラフな格好をしている。
「鷲宮くん、ごめん先に……あ」
「……」
「…いや、男だしそういうこともあるよ。うん、…ごめん」
いっそ笑って馬鹿にしてくれた方がどれだけ良かったことか。男同士だからと妙な同情をされても嬉しくも何ともないのだ。春弥は立ち上がり、おそらく飲み物でも取りに来たであろう幹靖の手首を掴むと、よよよとテレビ前のソファまで連れていった。先程まで春弥が自慰していた場所であり、幹靖は申し訳なさそうに視線を反らしている。
「あのさ、ごめん鷲宮。全然気にすることないから。俺たち男だから。しょうがないから」
「…そうだよな、俺たち男だもんな」
「そうそう別に岩崎や和雄に言ったりもしないし、俺も見なかったことにす……ぅわっ」
幹靖の細身の身体をソファに押し倒し、突然のことで反応の鈍っている彼の手を、風呂上がりでほかほかしていたタオルで縛り上げる。
その瞬間、彼の瞳に恐怖と動揺の色が浮かんだのを見て、春弥はにこりと微笑んだ。押し止める理性など彼に見られる前から崩壊している。
「男だもんな?お前だって溜まってるよな?」
「え、あ、別に溜まってな…、!っん、…っ」
唇を押し付け、舌を捩じ込ませる。逃れようとする彼の舌に己の舌を絡ませ、軽く吸い上げると、彼の身体がびくりと震えた。タオルのキツさを確認しながらも内心ほくそ笑む。
「っは、…っん、…っふぅ、ん、ん…っ」
唾液が零れるのもかまわず、口内を蹂躙する。このような口付けをしたのは以前彼女と付き合っていた頃なので随分と久し振りだ。
唇を離すと、透明な糸が名残惜しむように互いの舌先から伝い、落ちた。羞恥か快楽か、それとも怒りか、彼の頬は薄らと上気している。春弥は知らず知らずのうちに込み上げてくる笑いを懸命に噛み殺した。
幹靖は戸惑いを隠そうともせず訴える。
「…鷲宮、お前俺が男だって分かってるんだろ…っ?」
「当たり前だろ」女子のように柔らかくはないし、胸もないのだから。
「ならなん……、っば、か、やめ…っ」
石鹸の香りのする首筋を舌先でくすぐる。せっかくシャワーを浴びたのにこれではべたべただな…と春弥は剥き出しの素肌に舌を這わせながら、シャツ越しに胸の突起を弄った。びく、と彼の身体が跳ねたのに気を良くして、ワイシャツも脱がせぬまま唾液を塗りたくるように突起を舐め回す。
「ん、く…っ」
「ここって男でも感じるのか?」
勃ってる、と指先で硬くなりつつある突起を弾く。彼の頬が再び赤く染まったのを認めてから、春弥は湿ったシャツの上から突起を指で揉みこみながら、舌先でちろちろと責め立てた。もう片方の突起も同じようにこね上げてやる。
「っぁ…っ、ん、っ…ん…んんっ」
必死に声を押し殺しているようだが、ぐっしょりと濡れたシャツの上からでも分かるほど、突起は硬くしこっている。
春弥はワイシャツのボタンをゆっくり外すと、尖りきった其れを空気に晒した。
布越しではない、しっとりとした舌を直接彼の突起に突き立てる。生々しい他人の肌、他人の性感を犯す感覚。
「やめ…っこ、んなのおかし…っ」
彼の眼は薄らと水の膜が張っている。春弥は唇を弧に釣り上げると、優しく彼の瞼に口付けを落とした。こういうときだけは、彼の整った容姿を疎ましく思うことはない。
「っあ、ぁ…っっ」
唾液でいやらしく輝く突起を舌でこねくり、甘噛みすると、彼は泣きそうな声を漏らした。ふと彼の頸に完全には消えていない痣があるのを見て、春弥は嬉しいような意地の悪いような気持ちになる。
爪をたてた。
「っひ、ぁ、…っ!」
「痛い?それとも気持ち良いのか?」
「っん、あ、ぁ、ふ…っ」
突起はぷくりと充血し、摘めばこりこりと面白いように転がった。舌で嬲り、もう一方は指の腹で押しつぶす。
彼はタオルをどうにか解こうともがきながら、目尻に涙を滲ませている。
「鷲、宮…ぁっ、や、…めてくれ…んんっ」
「いやだね。…お前だって乳首硬くして気持ちいいんだろ?」
「違…っひ、ぃ…!」
突起を思いきり摘まみ上げる。するととうとう涙がぽろりと零れて、春弥は全身を高揚感に包まれるような感覚を覚えた。安い高潮。だがやはり美しいものは美しい。身体の中心がぐわりと熱くなるのを感じる。
そう、身体の中心。性器の昂り。
「ほら…ここだってこんなに濡れてる」
「……っ」
さわ、と彼の足と足の間を撫で上げる。反応し切った性器が先走りの汁を零し、下着を、制服をぐちゅりと濡らしている。
春弥は彼の下半身に顔を埋めると、優しく彼の股間に指を這わせた。
「乳首いじられて漏らすなんて、女みたいだな」
「そ、れは…っ」
「それは?」
気持ち良さのあまり彼を言葉で責めるだけで春弥自身が達してしまいそうだ。春弥はもはや笑みを隠さずに、彼の性器をスラックス越しに掴み、舌を這わせた。
空いている手で彼の秘部の入り口を力を入れつつ撫で回す。
「だ、駄目だって…っ鷲宮、っぃや、だ…っ」
びくっびくっと彼の腰が跳ねる。性器に沿ってツツツ…と舌で舐め上げると、彼は身悶えるように腰をくねらせた。特に先端に向かうにつれて、反応が激しくなる。
「もしかしてイきそうなのか?」
否定するようにぶんぶんと首を振る。けれども布越しでも彼自身が限界まで熱くなっているのが分かる。春弥は敢えて彼を射精させぬよう秘部の周囲の敏感な肌を撫でることに専念した。のちのち此所で自分で受け入れるのだと知らしめるように。
彼はもどかしげに身を捩る。
「鷲、宮ぁ…っ」
「どうかしたのか?」
羞恥に染まった表情がたまらない。身体を起こし、胸の突起に触れてやると、彼の切なげな声色はより切羽詰まったものへと変わる。
「…けど、駄目だって言ったのお前だろ?」
「う、ぅ…っ」
噛み締められた唇が赤い。春弥は以前、雫に嚼まれて出来た己の唇の傷を思い出し、舌でなぞった。僅かな痛覚。彼の束の間の激情の証。そして幹靖の頸に残された痣は。…春弥は身を屈ませ、ねっとりと彼の股間を舐め上げた。指先を性器の先端に突き立てる。くちゅりと卑猥な音が響いて、彼は喉を仰け反らせた。
「…は、ぅ…ッぁあ…っあ…っや、ぁ…ッ」
熱に浮かされて思考が千々に乱れているのか、彼は貪欲に快楽を逃すまいとするように、春弥の頭部を両足で挟み込んだ。
「も、っぅあ、…っ我慢できな…っ」
びくりと彼の腰が大きく震える。脱力しソファに沈む込む身体。春弥はその剥き出しになった白い喉元に、浅く噛みついた。尖りきったままの胸に指を這わせる。
「ん、ん…っ」
「まだ終わりじゃないだろ」
「んう…!」
膝をぐい、と達したばかりの彼の股間に押し付ける。すると、胸の突起も押しつぶしてくれと言わんばかりに、いやらしく硬さを取り戻す。…期待されているのにわざわざ背く理由もない。
「ひ、っぅ、ぁ…ッ」
こりこりと指先で揉みほぐせば、面白いように中心の熱さも増した。春弥は口の端をつりあげ、乱暴に彼のスラックスを引き下ろす。再び勃ちあがっている其れ。
そして。
「下着ぐっちゃぐちゃだな」
羞恥に紅潮する頬。へらへらしている彼は気に入らない。真面目な顔をしている彼も落ち着かない。この顔は…もっと酷いことをしたくなる。
下着に飛び散った精液を手のひらで掬い上げ、その端正な顔になすり付ける。
「よく似合うじゃないか」
「…鷲宮…」
最高の褒め言葉で侮蔑する。彼は縛られたままの腕が辛いのか、それともこの行為自体が苦痛なのか顔を歪める。
俯せにして押し倒し、彼の秘部に触れる。女性ではないので他者を受け入れる器官はここしかない。
引き攣った声色。
「鷲宮、まさか…」
「だって口で咥えたくないだろ?ならこっちしかない」
「………ッ」
「逃げるなよ。大丈夫だって…ちゃんとほぐすから」
そう言いながら彼の性器を上下に扱く。ローションなどという便利なものはないので、精液をもう片方の指に絡め、秘部に浅く突き入れる。本音を言えばさっさと自身を挿れてしまいたいのだが、この状況で流血沙汰は困る。
「…っ」
「…」
「んん…ッ」
前立腺の盛り上がりを探り当てる。俯かせているため表情は分からないが、耳は赤く染まっている。…上向かせるか。
指を押し付けたまま、彼の腕を引っ張って身体を反転させる。
「ぅ、あ…!」
「なんだよ幹靖、泣いてるのか?…」指を擦り付ける。
「あっ、ん、んん…っ」
異物に反応して腸液が分泌されたのか、くちゅりと卑猥な水音。
とはいえ、それだけではほぐし切れない。指を舐め唾液を潤滑油代わりに掻き回す。
「は、ん、っ、ん、っ、んう…っ」
「…もっと強めにしても平気かな」
「ッひ、あ、…っ」
前立腺を揉み込むように責め立てる。すると無意識なのかどうなのか、其処は指を放すまいとするように締め付けてくる。その手の素質でもあるのではないだろうか。
春弥は彼の性器を握りながら、指の本数を増やして敏感なところを弄り続けた。次第に指がふやけてくる。
「…そろそろ良いかもしれないな」
「…ッ」
「これくらい開けばいけるんじゃないか」
そう言って指を入れたまま、ひくつく其処を押し広げてみせる。…無論彼には見えないとは思うが感覚で分かるだろう。桃色の内壁に舌を這わせたくなるが、体勢的に辛いものがあるのでやむを得ず、脈打つ春弥自身を押し当てる。幹靖は悲鳴を上げた。
「…っ無理だって、裂けるだろ…ッ」
「余程立派なものならそうかもしれないけど、俺は人並みだから」
「そんな…あ、っ………っっ」
先端が前立腺に当たったところでぴたりと止める。感じたのかひくんと其処が収縮して、春弥は気持ち良さに呻きそうになる。
そのまま緩やかに腰を揺すり、彼の感じるところに性器を押し擦る。抵抗が弱ったところを狙って腰を深く押し進めた。
ずぷりと根元まで埋め込む。
「っ鷲、宮、…ぁあ………っ」
彼の中で自分自身がそそり立っているのが分かる。まだろくに動いてもいないのに正直出てしまいそうだった。
しかし、その状態のまま春弥は動きを止めた。彼が慣れるのを待とうだとか殊勝なことを考えたわけではない。二階から人が下りてくる足音が聞こえたのだ。雫か和雄か。幹靖は春弥がこのまま諦めるのだろうとでも思ったのか、僅かに瞳に希望の光を宿らせたのだが。
春弥にしてみればそのような生殺しはまずない。
「ッ!あ…っぁ、あ…ッ」
一旦引き抜き、再度内壁を擦り上げながら根元深くまで突き上げる。思わず漏れた嬌声に、彼の顔色が変わる。春弥は自身を突き入れたまま、手で彼の口を塞いだ。いよいよ強姦じみてきてるなと思いながら腰を動かす。締め付けが強まる。
「んっ、んんん、う……!」
「…はは、とろとろ」
片手で彼の性器の先端を嬲る。中を突き上げるたびに先走りの汁がぬるりと溢れ出て、春弥の手を汚す。
足音は階段を下り切って、廊下を歩きこちらへと向かっている。彼は頬を火照らせ堪えるように目を閉じる。
「…ん、んん…!」
「…和雄かな」
小声で囁く。するとその瞬間きゅうっと締め付けが強まって、春弥は息を飲んだ。竿が撓り、彼の体内に精液を流し込む。頭が熱い。
「ん………!」
幹靖は驚いたように目を見開いて、頬を真っ赤に染め上げた。手で押さえつける頬が熱い。
…足音が止まった。ドアノブが捻られてがちゃりと鳴る。春弥は咄嗟に己の制服の上着を幹靖に押しつけ、彼のシャツを整えさせた。…何気ない風を装って、ソファに腰掛ける。入って来られたらアウトだなと思う。特に雫であった場合。
だが、ドアから顔を覗かせたのは、春弥の予想通り和雄であった。彼は春弥と視線を合わせると居心地悪げに視線を反らし、幹靖の後ろ姿を認めてからゆっくりとドアを閉じた。立ち去る足音。春弥は微笑む。これが笑わずにいられようか。
押し付けた上着を剥ぎ取る。どろりと付着した白い液。
「ああ、またイったのか」
「…っ」
もはやぐうの音も出ないと言った面持ちである。春弥は己の吐き出した精液が彼の太腿から伝い落ちるのを見遣ると、また心無し己のものがむくむくと起き上がりそうな感覚を覚えた。つい、と目を反らし、黙って彼の腕の拘束を解く。殴られるのだろう。何せ彼の意思もかまわず好き勝手したのだから。だとしても殴られるのは雫で慣れている。
だが、幹靖は憐れにも俯いたまま一言呟くだけだった。
「……意味…わかんねぇ…」